碑之東西分水溝壑完如八字樣故以指南針
　　　　審驗方位則西之鴨綠之溝東之土門之溝
　　　　確鑿無疑毫不差爽碑堆之去豆滿▣(江)上源
　　　　洽爲九十餘里之遠而初不接於土門發源則指
　　　　豆滿謂土門苟說不得者也自碑址從東溝而
　　　　下間三四十步許往往築石堆延至二十里許大
　　　　角峰自此築土堆如山迤東至七十里堆令爲
　　　　一百八十餘屯堆上之木自生自老皆已拱抱
　　　　築土之中間有土壁如門樣數十里許故旣得土
　　　　門之名此是亘萬古不易之界也標限如彼
　　　　的確則何必捨此土門之眞源而止論於北甑山
　　　　下畔嶺源出之水乎碑東土門之源歷石堆

　　　　土堆至杉浦水始出迤至于北甑山之西陵口
　　　　黃口水大沙墟小沙墟九等墟兩兩溝等處流
　　　　于五六百里之許與松花江幷合東至于黑
　　　　龍江入于海土門江之自上源至下流入海以東
　　　　固是界限內地而我國則初慮邊釁嚴禁流民
　　　　遂虛其地故淸國謂之己疆先爲占居至
　　　　有割讓俄人千餘之地視之當年定界土門
　　　　之限不容若是而原定之界限尙未妥勘民
　　　　生以至受困邊案從于滋案揆以交際寔屬
　　　　未協迨此兩國和好定約之日我疆我理又所
　　　　不已也摠之此界之申明舊限有關乎韓
　　　　淸俄三國互相先期聲明三國各派妥員
　　　　會同先勘白▣(頭)山定界之碑自土門之源順流
　　　　至于入海處歷歷踏勘公眼繪圖彼此援
　　　　照各國通行之法例公平妥决則界限自
　　　　可分明邊釁無由滋生矣不但本國邊民
　　　　之安揷乃已實是三國和誼之友睦豈非亞
　　　　洲東隅之一大幸乎今於承訓査界之行
　　　　只自下畔嶺以下至白頭山定界碑堆形
　　　　便與豆滿江上源一一踏勘繪圖至若碑
　　　　堆土門江下流入海之處道路險悠不可
　　　　以數三個月遍勘故未及躬査該土門下
　　　　流之界不能仔細圖形故地界繪圖定
　　　　界碑本各一件粘付而界地情形可據
　　　　事蹟左開報告云云

　　　　　左開六條

　　　一曰白頭山分水嶺土門江形便畧曰白頭山
大澤三面皆
　　　　　塞北流謂之天上水此松花江之源山之一枝麓東
落向南爲分水嶺嶺脊有定界碑嶺之正東正西
　　　　　有溝壑西爲鴨綠東爲土門土門江合于松花江至
黑龍江而入海今於勘碑査界之場碑記之東爲土門
　　　　　四字寔爲兩國
公判之符也

　　　二曰豆滿江土門江二水之辨畧曰現考關北誌
云古人謂童巾
　　　　　以上稱於伊後江以下謂之豆滿江卽今穩城
鍾城接界也茂山會寧鍾城三邑之江實爲漁潤江
　　　　　而卽於伊後江之變稱初無豆滿之名灼然可知安得
爲土門之轉音乎假使漁潤豆滿早得土門之名與兮
　　　　　水嶺發源之土門大相不同明
是二土門不可以一水論也

　　　三曰分界江非土門江下流之辨畧曰下畔嶺發源
之水或稱塼爾哈
　　　　　通河或稱分界江無乃古人指此爲土門江下流而浪
得分界之名乎蓋分水嶺發源之土門江東流三百
　　　　　餘里過北甑山轉入松花江則
分界土門二源自可辨矣

　　　四曰關北誌事蹟

　　　五曰古老傳說

　　　六曰邊界事情畧曰現今自豆滿江一帶距土門
江下流以內地面長寬假量爲
　　　　　數千里我民之所居者無慮幾十萬戶該土之開
荒拓地專賴我民之力而淸俄民則不過是我民
　　　　　十分之一我民初因荐歉而越墾資生竟被壓制之
困離親戚棄墳墓是豈本性哉且鬍匪熾盛傷命搶財
　　　　　之弊比比有之皆遑遑若不保朝夕今於査界所經
處男婦老少往往擁環馬首泣說困苦只望劃界
　　　　　安接之澤此皆我　先王赤子也如不拯救之
急必將塡壑乃已興言及此寧不矜憫竊維民
　　　　　心亦天意也尋劃舊界安接流民豈不應天
順人乎謹按公法會通第二百九十六章載明兩
　　　　　國毗連理應會同査定疆界明白圖繪貼說以
杜日後疑端等語當年穆克登之奉旨査邊也
　　　　　兩國會同立石築堆明白査定載於圖誌則鴨
綠土門之限有何疑端乎且二百九十七章載明兩
　　　　　國若以山嶺爲界而無條欵指明山麓山頂則水自
山頂而下人之居者亦必順水而下故必以山頂爲界等
　　　　　語然則白山下東西分水天然之限確定指明於碑
界也且二百八十三章載明兩國於某處荒地占居
　　　　　部落而疆界未定者若無江河山嶺爲限則應於居
中劃界等說若當日無江河山嶺之標限應有劃
　　　　　界之論而况已定界限內之一尺寸王土幾千萬我民肯
讓他邦之管轄壓制哉此誠千古臣民有志之所
　　　　　共慨然故敢附愚見如
是恐未知處分之如何

　　魚允中ハ金禹軾ヨリノ探界報告ヲ得テ斷
　　然敦化ニ抗議スベク癸未七月鐘城府使ノ名
　　ヲ以テ照會セシメタリ

　　　　査中外界限向以土門爲界本國只知
　　　　豆滿之外更有土們江別派按有故
　　　　地圖爲據實未曾往泝流、今此列
　　　　邑民人私往窮源歸以爲告不可遽
　　　　以民人私言爲憑乃派弁往審白頭
　　　　山分水嶺搨得康煕朝穆總管碑
　　　　踏審土門源流果與民人所告相符
　　　　別爲別派濱江皆懸崖陡壁乃至黃
　　　　口嶺而還繪有新圖與舊地圖較閱
　　　　則土門江與分界江間有不相屬處曾

　　　　以爲疑今此遣人踏勘又如此本職於疆
　　　　域圖誌未曾詳悉且貴縣則闢荒建署
　　　　未久宜査實勘定一遵康煕朝所劃
　　　　疆界請煩貴縣派人約同先審白頭
　　　　山定碑知土門發源之處繼而査明界
　　　　限辨別疆土爲妥玆據民人所呈並將
　　　　土門江分界江以南舊圖移模一本新圖
　　　　一本白頭山分水嶺定界碑墨搨一本賫送
　　　　査照商辨可也

鐘城府使ヨリ回答シタルコノ照會ハ敦化知縣ヲシ
テ驚愕セシメタリ何ントナルバ朝鮮ハ淸朝附庸ノ
國土ニシテ邦名コリ存在スルソノ國境云云ノ如キハ
朝鮮ヨリ提唱セラルベキモノニ非ズト信シタレバナリ
コレ獨リ敦化知縣ノミナラズ淸國ノ上下然カク信
ジ居リタレバナリ

敦化知縣ヨリノコノ回答文ハ直チニ吉林將軍銘安
ノ下ニ申達セラレ銘安及巡撫吳大徵ハ愈朝鮮ニ對
スル方策ヲ左ノ如クニ協議シ之ヲ天津李鴻章ニ
提案シタリ

　　(一)　朝鮮ヨリ越境流移セル朝鮮人ハ益增加
　　スルノミナラズ直ニ容易ニ之ヲ退去センムルヲ
　　得ズ已ニ中國ニ歸化セルモノハソノ儘ニ許容
　　スベキモ今後越境流民ニ對シテハ嚴重ナル
　　禁令ヲ實行スルコト

　　(二)　越境流民ノ種墾地域ハ中國ノ領土ナル
　　ニ拘ラズ住民ハ殆ンド朝鮮人ナリ朝鮮國境

　　ノ官吏ハ昔年穆克登ノ長白山碑ヲ以テ
　　定界トナシ越境流民ノ墾地ハ自朝鮮ノ地
　　ナリト稱言スルニ至レルヲ以テ宜シクソノ然
　　ラサル旨ヲ朝鮮ニ訓諭スルノ必要アルコ
　　ト

　　(三)　朝鮮流民ハ皮溝韓邊外ノ沙金地帶
　　並ニ良材伐採地域ニ集合スルニ至レルヲ以
　　テ該地方ハ特ニ流民ノ來住ヲ禁ジ漢人ノ
　　起墾來租ヲ期セザル可ラズ故ニ先ツ朝鮮
　　ニ向ワテ定界ヲ約シ豆滿江ヲ以テ限界ト
　　定ムベシ

トノ意見ヲ提出スルニ至レリコレ光緖十一年二
ナリトス

憲宗十年甲辰(弘化元年)

丁酉關白源家齊退休子家慶立辛丑延聘
差倭出來將以丙午通信今年議聘倭來
言曾於辛未迎待馬嶋似與禮節有所未
周易以大改修聘云云卽將涉海之遠近逈
殊留舘之遲速未料往後講定自致延拖
有難以原定丙午裝送更退十年以丙辰
春爲定

　對州ヲ以テ易地通信迎接地ト定メタリシモ又更ニ
　變更シテ大阪ヲ以テ易ヘントス盖シ對州ヲ以テセ
　バ對州ノ迎接費ノ巨額ニ達スルノ弊ニ堪ヘザ
　ルコトト幕府ヲ以テセバ大阪迎接ヲ以テ德川幕
　府ノ權威ヲ示サントス

哲宗六年乙卯(安政二年)

鳥倭奉書告關白源家慶身死遣金
繼運等問慰

一征韓論ノ出現トソノ眞相

文久三年四月二十日德川將軍上洛中京都ニ於テ對
州藩大嶋支之允樋口謙之亮ハ老中板倉周
防守ニ面謁シ對州兵備手當ノ急務ヲ說ク

板倉周防守ヨリ內命スルニ　先ツ朝鮮國ノ偵察任
務ヲ對州藩ニ傳フ

同年四月二十七日大嶋友之允ハ大阪ニ於テ公用人辻七
郞右エ門ノ取次ヲ以テ過日內命ノ朝鮮偵察任
務ノ御受ヲナス

哲宗十年己未(安政六年)

島倭奉書禮曹告關白源家慶身死
源家定新立遣李哲懋問慰

一文久元年二月露艦對州ヲ侵カシタル時幕府ニ急
報シテ其對策ノ交涉ニ當ッタモノハ大浦作兵衛
川本九左エ門ナリ

文久三年五月十二日宗重正ハ板倉周防守ノ進達
ヲ以テ朝鮮偵察任務ノ御受ヲ逑ブ

同年六月三日軍艦奉行勝麟太郞ヲ對州ニ孤
遣ノ達アリ

一文久三年山田方谷ヨリ大嶋樋口兩人ヲ桂小五郞ニ紹介
ス(紹介書ハ別項ニアリ)

一勝ノ日記(文久三年四月二十七日)中ニ今朝桂小五郞對州
藩大嶋友之允樋口謙之亮同道ニテ來ル朝鮮ノ
事ヲ論ス

一元治元年五月

　朝鮮問題ニ關心シ大嶋樋口倂ニ桂、勝、山田ノ
　諸人ト大ニ對韓政策ニ腐心シタル松平春
　嶽、板倉周防守ハ老中職ヲ止メラル　又山田
　安五郞モ幕府トノ重要關係ヲ差止メラル

一元治元年十月大島友之允ハ江戶宗邸ニアリテ幕
府ノ對韓斷行ノカナキヲ見テ奮慨シ對州一藩ノ力
ヲ以テ决行スベキ對韓七策ノ意見書ヲ幕府
ニ提出ス

ソノ七策ノ項目　(一)兩國交際ノ規則ヲ改ムコト　(二)勉テ
　彼ノ民心ヲ服セシムルコト　(三)兩國ノ禁ヲ破ルコト　(四)
　彼我ノ物産ヲ開クコト　(五)神州ノ武威勇氣ヲ示
　スコト　(六)淸國トノ商路ヲ開クコト　(七)大ニ海軍ヲ興
　起スルコト

一元治元年五月十三日水野和泉守ヨリ朝鮮用
務ニ付キ江戶出府方ヲ大嶋友之允ニ傳フ

大嶋友之允ハ同年七月八日日付ヲ以テ征韓ノ速
斷ヲ期スタメ勝其他用掛ノ對州下向ヲ促進スルノ
口上書ヲ提出ス

同年七月十三日大目付神保伯耆守御目付石野
民部ヲ朝鮮用掛ニ任命ス

　　日本國臣拾遺對馬州太守平義達因
　　朝鮮國禮曹大人閤下謹上表伏承一德
　　時新而誕膺休命於上帝百祿是何
　　而克紹令緖於先王山川鬼神亦莫不寧
　　日月星辰自增其耀甘露降醴泉湧靈
　　鳳現瑞麟彰　義達誠歡誠㐂頓首頓首
　　恭惟新王殿下叡智有臨武文廣運振起
　　箕子之善政庶績咸煕挽回擅君之淳風九
　　族已暵寬仁天覆地載八方歌有道之君恩
　　澤雲行雨施四民樂無爲之化赳赳爪牙
　　之士固藩垣濟濟股肱之臣以安社稷益延壽

　　域於萬歲永保福祉於無彊義達奉職本
　　邦修好貴國仍馳小伻玆賀登位耑祈不
　　渝鄰誼倍敦舊盟聊獻薄儀庸伸微悃
　　不爽前規庸幸希轉達謹奉表以聞

　　　　　　　　　　　(元治元年六月)

　　獲蒙厚眷遠勞星搓我新王益篤舊好此
　　實兩國永王之喜亦惟貴鎭睦鄰之誼矧玆
　　頌祝辭意勤摯可見左右克體先拾遺之志
　　有此終始不替之懿肆我聖上特嘉誠信亦粤
　　朝廷多荷盛意深增欣悅不容稱謝意儀
　　謹卽轉啓仍將別幅畧伸回敬土産不腆
　　莞領是希統惟崇亮不備

　元治元年二月二十三日水野和泉守ヨリ勝麟太郞
　對州出向中止方ノ報アリ

　　　ソノ中止ノ理由ハ　水野和泉守ヨリ勝麟太郞長崎
　　　ヨリ對州ヘ下向ノ豫定ナリシモ接津守禦▦急用
　　　ノタメ俄カニ歸京ノ已ムナキニ至リシ旨報アリ

高宗四年丁卯(慶應三年)

島倭奉書禮曹告關白源家定立儲

一慶應三年十月外國奉行平山敬忠ヲ正使トシ目付
古賀謹一郞ヲ副使トシテ韓國ニ遣ハスコトニ决シ同年
十一月平山一行ハ長崎港ヨリ出發セントスルノ際幕
府ノ政變ニヨリテ中止シタリ

　　平山ニ與ヘタル使命ハ韓國ト共同國防ノ計劃
　　ニテ若シ韓國ニシテ同意セザルトキハ兵力ヲ用ヒ
　　テ韓地ニ國防ノ策動ヲ實行スルニアリタリト傳
　　ラル

高宗五年戊辰(明治元年慶應四年)

島倭奉書禮曹告關白源家定身死

　コノ通信報告ヲ以テ德川幕府トノ關係ハ終了
　シタルモノナリ

一幕末ニ於ケル朝鮮信使往來

　近代朝鮮ト幕末ノ交際史實ヲ左ニ記ス

憲宗四年戊戌(天保九年)

島酋奉書禮曹告關白源家齊退休其子
源家慶新立遣李宜致賀

　　　島酋トハ對州藩主宗氏ヲ謂フ朝鮮文書ニ
　　　於ケル對日本ノ文辭侮蔑ヲ極メタリ

一明治五年九月花房義質對州ニ着シ宗氏ノ
　貿易署ヲ撿査ス

一明治五年十月花房義質軍艦春日艦ニ便乘シ
テ釜山ニ上陸ス軍艦ノ外ニ滊船有功號モ同航シ
テ釜山ニ碇泊ス　　一記ニハ軍艦明光トアリ未詳

花房釜山上陸後

　　一代官所ノ簿記ヲ査シテ之ヲ收ム

　　一在舘宗氏ノ吏員ヲ沙汰シテ歸國ヲ命ス

　　一草梁舘詰司深見正景ヲ外務省九等出
　　仕ニ補ス

　　一十一等出仕廣瀨直行ヲ以テ一代官トス

　　一奧　義制ヲ監察トス

之ニヨリテ和舘ヲ本省ニ直轄スルニ至レリ

一征韓論ト江華條約　征韓論敗レテソノ一派
秘ク官ヲ辭シテ去ッテ就中西鄕隆盛ノ薩
摩ニ退去スルヤ薩摩出身ノ文武官ノ辭去ス
ルモノ多ク次デ江藤新平ハ佐賀ニ前原一
誠ハ萩ニ去ッタソノ同志各地ニ退去シ天下騷
然トナッタ析カラ台灣ニ於ケル生蕃人琉球人
殺戮ノ事ヨリ政府ハ大兵(約七千)ヲ動カシテ
台灣征討ニ從事ス盖シ國內ノ人心ヲ海外
ニ向ハシメ不平ノ空氣ヲ緩和セントシタモノデアッタ
台灣征討ハ月餘ニシテ効ヲ收メ今ヤ凱旋セン
トスルニ當ッテ征韓論者ノ內ニハコノ凱旋兵
ヲ以テ朝鮮ニ向ハシメント謀ルモノモアッタ又當時
征討司令官西鄕從道ハソノ兄隆盛ノ志ヲ伸

ハスベク朝鮮ニ向ハントシテ長崎滯陣中コノ議ヲ
中央ニ計ッタガ行ハレナカッタ

台灣征討後萩佐賀秋月地方ニ於テ暴力ニ訴ヘ
テ內亂ヲ計ッタ何レモ征韓論ノ行レザルタメ中央
政府ニ反抗シタルモノデアッタ一時　國內不平ノ勃發
ハ秘ク征韓論派デアッタコトヲ見レバ如何ニ日本
ノ國民ガ朝鮮ノ無禮傲慢ヲ憤ッテ居ッタカガ
想像サレル

是レヨリ先キ朝鮮ヨリ淸國ニ王世子冊立ノ儀ヲ以テ
出使シタ李裕元一行ハ天津ニ於テ驚クベキ報導
ニ接シタ　ソハ　駐淸アメリカ公使ノロヨリ台灣征討ニ
出陣シタ日本軍隊六千名ハ朝鮮ニ向フベク長崎
ニ滯駐中デアルソノ出動準備ニ忙ハシク列國ノ二三
强國ハ日本ノ出兵ニ贊同シ援助ヲナスカモ判ラヌト又
上海ニ於ケル外字新聞紙上ニ於テハ日本軍隊ノ朝
鮮ヘノ出動ヲ報ジ　フランス及アメリカ　モコノ日本出
兵ニハ共力スルカモ知レヌト書キ立テ今ニモ日本トノ
戰鬪ガ行ハレルカノ如ク　風說紛紛デアッタ

コノ情報ハ當時天津ニ滯留シタ李應浚ガ歸國
ノ上委細言上シタノデ朝鮮ニハ痛切ニ反響シ
タ何ントナレバ　フランスモ　アメリカモ江華砲擊以
後復酬的ニ兵力ヲ以テ重來スルニ非ザルカモ兼カモ判ラヌト
▣▣▣▣(▦テカラ)憂慮シテ居ッタ日本ハソノ新政府以來
屢修交ヲ求メタニモ拘ラズ之ヲ拒斥シタタメ已ニ兵
力ヲ以テ來襲スベキ風聞高カリシ析カラ台灣征
討ノ兵力ヲ長崎ヨリ朝鮮ニ向ハシムルノ報導

ハ實現スルニ至ルヤモ料ラレヌトシタ當時政府ハ
大院君退隱シテ政權ハ閔氏並ニ大院君反對
者ニヨリテ執政サレテアッタ若シ日本軍隊カ朝
鮮ニ來侵スルニ至ラハ政府ハ又大院君ノ復活ヲ
見ルニ至ルベキヲ以テ王宮並ニ政府ニ於テハ何ン
トカシテ日本ノ憤怒ヲ緩和シ　フランスアメリカノ
侵犯ヲ避クベキ方法ヲ取ラネハナラヌトシタ

幸ニモ按廉使一行カ東萊ニ到リ日本ノ使節
ト會合シタ結果日本政府ノ眞意ハ平和ノ
隣好ニアルコト判明シ一行中ノ隨員太凡谷ヲ
以テ森山茂ノ書函並ニ日本政府ノ新制度
ヲ携帶シ京城ニ急行シテソノ狀况ヲ報告
シタ京城政府ハ直チニ禮曹判書趙寧夏ヲ
シテ個人ノ資格ヲ以テ森山茂ニ隣交締結
ノ用意アル旨ヲ表示シ且ッ前代大院君時
代ノ失政ヲ辨明シ來タ

朝鮮ノコノ處置ハ頗ル敏活ニ行ハレ外交上
偉大ナ成功ヲ遂ケタ最早日本ノ國內狀
勢ハ征韓熱ニヨリ各地ニ　暴亂爆發シ之ヲ
抑制スルコト非常ニ困難トナッタ况ンヤ台灣凱
旋ノ軍隊ハソノ兵士ニ至ルマデ渡海征韓ノ途
ニ上ルベク勇躍シ▣(テ)又司令官西鄕從道モ容易
ニ征韓論ヲ中止スベクモナカッタコノ際森
山茂ヨリ朝鮮應接ノ報ハ政府ヲシテ辛フ
シテ愁焦眉ヲ開カシメタ政府ハ森山茂ヲ以テ
台灣征討司令官西鄕從道ヲ說カシメ僅カ

ニ征韓轉向ヲ阻止セシムルニ至ッタ

明治八年二月森山茂ノ國交ノ端ヲ得テ重ネ
テ釜山ニ出張シタ時ニハ最早台灣凱旋軍ハ
原隊ニ還ヘリ日韓ノ間多年衝動シタ征韓
論モ解消サレントスルノ形勢トナッタ

朝鮮側ガ急ニ日本ノ意ヲ迎ヘテ隣交ニ傾ク
ニ至リシハ動機第一日本軍隊ノ來犯襲擊、第二
フランスアメリカノ共同復讎運動デアルコトハ謂
フ迠モナイデ主トシガ又別ニハテ　大院君ノ復權執政ヲ怖
レテ日本ト舊交ヲ溫メルコトトナッタノデアル

然ルニ明治八年七九月永宗嶋砲台ヨリ日本軍
艦雲揚艦ヲ砲擊シタ事件ガ突發シタ該
事件ハ微弱ナル永宗嶋砲台トノ戰鬪デアッタ
僅カ四十分間位ノ射擊ニヨッテ永宗嶋砲台
ハ沈默シソノ砲門及武器ハ日本軍艦ニ奪取
サレタソノ原因ハ全ク朝鮮側ノ▣責任ニアリ
艦長井上良馨ハ長崎ニ到リ九月二十八日日付
ヲ以テ河村海軍大輔ヘ「朝鮮興江嶋ヘ二
十日到着端舟ヲ卸シ上陸尋問セントスレトモ彼
砲發激シキ故不得止當艦ヨリ大砲小銃ヲ發
シ上陸彼ノ大砲三十八其外小銃品ニ持歸ル城
ハ燒失手負水夫二人一人ハ療治不叶電信ニテ
委細申上難シ故ニ米國郵船ヨリ歸京ノ上申
出度ニ付キ大至急御指令可被下候」ト

雲揚艦砲擊ノ報日本政府ニ達スルヤ征韓
論一派ノ暴擧、不平爆破ニ惱マサレタル折柄ナ

リシユヘ晴天ノ霹雷、周圍憂欝タル空氣ヲ一
掃シタルノ感アッタ參議大久保利通ハ主ト
ナッテ雲揚艦事件ヲ處理シ若シ事成レバ多
年懸案ノ日韓修交ハ日本ニ有利ニ解决
サレテ征韓派ニ對スル政府ノ威信ヲ立ツルヲ
得ベク事若シ成ラザレハ朝鮮ヲ威壓シ兵力ヲ
以テ處理シ朝鮮ヲ擊破シテ以テ明治初年
以來對立シタ征韓派ト合流以テ國權ノ擴
張ニ成功スベシトナシ愈斷乎タル態度ヲ以テ朝
鮮ニ談判スルコトトシタ

政府ハ朝鮮ノ近狀ヲ知ルベク十月十三日釜山滯
在ノ森山茂ニ歸朝ヲ命ジタ森山茂ハ十一月四日
上京正院(太政官)ニ出登シテ朝鮮ノ近况
ヲ委細言上シタ

コノ事件ニ關スル朝鮮側ノ報告ハ異樣船一
隻來泊シ不意ニ砲擊シタカラ此方ヨリモ應
射シタソシテ格別ノ損傷モナク異樣船ハ外
洋ニ退居シタトアル從ッテ政府ハ何等考慮
スルコトナクソノママ成行ニ任カセテアッタ外國ノ
軍艦ガ突然永宗嶋ニ來テ砲擊シソシテ彼
此大シタ損傷ナク外國船ハソノママ退去シタトコ
レ當時朝鮮官吏ノ常套報告デアル事無レ
カシトノミ因循姑息デソノ日ヲ送ッタ朝鮮官吏
ノ無責任ハ大抵コンナモノデアッタ

之ニ反シテ日本側ハ朝鮮問罪交涉ノ理由ヲ　フ
ランスアメリカ等ニ告ゲテ暗ニ往年江華砲擊

以來ノ感情ヲ利用シテ對韓政策ノ進展ニ便ナ
ラシメ又國交破烈ノ際淸國ノ妨害ヲ排斥スルタ
メ十一月二十八日天末寒氣ニ拘ラズ森有禮ヲ
淸國ニ急行セシメ天津ニ於テ李鴻章ト會
辨セシメ　談判大使トシテハ武將トシテ勇名高ク
征韓論派ト親密ナル陸軍中將黑田淸
降ヲ正使トシ參議井上馨ヲ副使トシタ黑
田中將ハ當時北海道開拓長官トシテ外地問
題ニ　關心アル人デアッタ井上參議ハ精氣銳敏
快特ニ雄辨ナル人物デアッタ宮本小一小牧昌
業森山茂等ニ隨員トシテ一行ニ加ハッタ日
本政府ハ今回ノ談判ハ一國ノ成敗休歲ニ關
スル重大事件トシテ準備等周到ヲ極メタ
黑田全權一行ヲ送クルタメ軍艦春日ヲ以テ
大臣ノ乘艦トシ別ニ陸兵六ケ大隊ヲ編制シ
種田少將ヲソノ司令官ニ任ジ山縣陸軍卿
ハ下ノ關ニ出張シ萬一ノ指揮ニ當ラシ▣(ム)
メタ

一行ハ武裝シタ軍艦六隻ヲ率ヒ八年十二月二
十一日對馬ヲ經テ釜山港ニ來泊シタ釜山ニ於テ
一行中ノ宮本小一ハ東萊府使ニ會見シテ今回雲揚
艦砲擊ノ件ニ付キ黑田全權一行ハ江華ヲ經テ京
城ニ直行シ政府ニ會辨スルトコロアラントスコノ旨ヲ
通告スト言放ッタママ今マデノ如クニ哀訴嘆願ス
ルヨウナ態度、少シモナク嚴然タル態度ヲ示シ一
行ハ直チニ江華ヲ指シテ進航シタ

是レヨリ先天津ニ於テハ森公使ト李鴻章トノ會
辨ハ最初日本ノ要望ハニ就イテハ何等關スルコトナキ旨ヲ
答ヘタリシモ日本今回ノ行動ハソノ最後ニ武力ヲ
用ヒルノ覺悟アルヲ看取シ朝鮮ニ向ッテ日本
ノ銳鋒ヲ回避セシメ成ベク　和局ヲ支ユベキ旨ヲ
朝鮮ニ傳達セシムルコトトナッタ

當時朝鮮ニ於テハ大院君退キ　王子誕生セラ
レ王世子冊立ノ慶式擧行ニ付キ淸國ヨリソノ
祝賀ノタメ吉和ヲ冊立賀使トシテ特派中デ
アッタ　朝鮮王宮ニテハ　大院君ノ退居ト王
世子ノ冊立ト同時ニ來リ祝福歡喜ニ包マ
レ朝野ヲ擧ケテ淸國ノ賀使來着ヲ待チ
ツツアッタ時デアッタ恰カモコノ目出度祝典擧
行ノ最中ニ於テ日本ヨリノ全權一行ハ江華ニ
着シ加之兵艦七隻ト滿載ノ陸兵トヲ以テ
談判スルトコロアリ若シ一朝事破レハ兵火立ロニ
王宮ニ起リ京城ハ軍馬戰血ノ巷ニ化スハ見
ルヨリハ明カデアル、且ツコノ機會ヲ利用シテ政
權ノ回復ヲ謀リ王妃ヲ排擊セントスル大院君
一派ノ勢力ハ何時來襲スルヤ料ルベカラザル有
樣デアッタ　王宮ノ憂慮ハ絶大デアッタ

天津李鴻章ヨリ賀使吉和ニ傳達シタル訓
令ハ吉和ガ義州ノ客舍ニ滯留中ニ到着シ
タ　ソノ訓令ハ朝鮮王ニ日本ト隣好ヲ結
ヒ三百年來ノ舊交ヲ破ルナキヨウニ勸告セ
シムル一件デアッタ

一行ハ江華談判會商中京城ニ到着シタ朝鮮
王宮ニテハ文武百官ヲ招見セラレ日本ト和▣(戰)
局ノ可否ヲ　諮問セラレタカ全會大多數ヲ
以テ和局反對ノ硬論デアッタ只ダ領議政李
最應ト左議政朴珪壽ガ條件付ノ和局贊
成ヲ唱ヘタニ止ッタ

元來朝鮮ノ國事討論ニ當ッテ事ノ利害、國
ノ成敗ハ論セズ只ダ大義名分ノ硬論ヲ唱ヘ
ルヲ以テ例トスタトヘハ壬辰役前ニ於テ豊臣氏
ノ使者ニ對シテ徒ラニ强化シ又丙子南漢山
城包圍軍中ニ於テモ口舌ノ硬論是レ能事
トナシ時局ノ利害得失ハ殆ンド關セザルノ
態度デアッタ今回モソノ通リテアル已ニ日本ハ
大軍ヲ率ヒテ眼前十里ノ地ニ押シ寄セ事ノ
是非曲直ハ萬明白デアッタニモ拘ラズ之
ヲ衆議ニ付スレバ事態ハ直チニ硬化シ口舌
ノ雄忽チニ局面ヲ支配スルニ至ルヲ以テ古今ノ
通弊トス

江華會議ニ對スル和局反對論大多數デアツ
ニモ拘ラズ京城ニ到着シタ上國ノ冊立使吉和
ハ謁見ノ際日本トノ和交ヲ勸メ江華ヨリハ
申櫶尹滋美ハ日本ノ態度危機ニ迫ッタ旨ヲ
奏上シ何日何時日本軍ノ來襲侵入行ハルヤ
モ知レザル形勢トナツタノデ今回ハ極メテ秘密
ノ間ニ日本ノ要求ヲ容レ多年閉鎖シタ國
ヲ開キ　玆ニ朝鮮開國ノ第一步ヲ踏ミ出ス

ニ至ッタ

之ヲ日本側ニ就イテ觀察スレバ　明治初年
以來征韓論一派ニ惱▣マサレタ政府ハ今度
コソ若シ日本ノ要求ヲ容レザルトキハ兵力ヲ
用ヒテ日本ノ體面ヲ　保チ倂セテ征韓論派ノ
銳鋒ヲ和ラケ國內ノ不平反動ノ氣勢ヲ鎭
メント决意シ陸軍卿山縣有朋ヲ下ノ關ニ急
行セシメ陸兵指揮ノタメ種田少將ヲ特派シ
タ

之ヲ政府ノ立場ヨリセバ朝鮮側ニ於テ要求拒斥
兩國斷交ノ場合ヲ見ルニ至ラバ　內外ノ國難ヲ
コノ機會ニ於テ一掃セムト欲スルノ覺悟デアッタ
大久保內務卿ノ一生一代ノ大事决行ハ實ニ
ド延聘遲期全ク形式ニ止ルニ至ッタ今マ幕
府倒レテ天皇親政ノ世トナリシトテ草梁舘
ノ一代官ヲ以テソノ變革ヲ傳達シタルヲ見テ
東萊府使ガ之ヲ自己ノ官房ニ保留シ暫ラク日
本ノ形勢ヲ觀望セントシタノハ决シテ無理デハナイ
况ンヤ當時ノ朝鮮政府ノ執權ハ大院君デアッ
タソノ威勢ハ全國ヲ壓シ天主敎ヲ禁止シ大同
江ニ於テハ　アメリカ商船ヲ燒打シテ外人ヲ全滅
セシメ　フランスノ大艦隊ハ二度モ來襲シテ自ラ敗
退シ天下ニ令シテ攘夷鎖國ヲ　布令シ世界ニ
處シテ　上國以外ニ修交スベキ對手ナキ時ニ於テ
蕞薾タル一小嶋ノ對州藩主ガ自ラ朝臣ト稱シ
タリ或ハ奉勅ヲ唱ヘタリ又ハ朕字ヲ用イテ大國

ヲ以テ自ラ任シ▣▣▣(タリシ)加之ソノ國書ヲ小吏下官ニ托シテ
處分セントシタコトハ日本側ヨリモヨリ大キクヨリ甚
シク日本ノ傲慢無禮ニ憤ラ怒セシメタノデアル今マ
テ日本ハ朝鮮ヨリ修信使節ノ來聘ヲ御迎ヘ
シテ滿足シテ居ッタ朝鮮ヨリノ文化的儀禮ニ感
動シテ隣好ニ甘シテ居ッタ　ソレニ突然上國ノ如
クニ朝廷ノ尊號ヲ表明シ大國ノ如クニ奉勅シテ
以テ國交ヲ强要スルコトハ餘リニ日本ノ無禮ナリトシテ玆ニ國デアル、故ニ
東萊府使ノ一邊守ニヨッテ日韓ノ國交ガ阻止サ
レタ

日本カラ之ヲ觀レバ政體ノ變更ヲ告明シ王政ノ復
古ヲ聲明スルコトハ只ダ國際ノ　一儀禮ニ止マリ
ソノ奉勅ト謂ヒ朕ト謂ヒ朝廷ト稱スルハ日本國
內ノ實境ヲ表明シタマデテアッテ朝鮮ニ對シ
テ何等誇稱粉飾ノ態ニヲ示シタルニ非ス而カモ對州一藩
ノ對應ヲ　廢シテ天皇親政ノ太政官ニ於テス
寧ロ朝鮮ニ對シテ鄭重尊嚴ヲ加ヘタルモノデ
アル然ルヲソノ國書ヲ抑留シテ▣▣(之ヲ)ソノ答書ヲ
モ修メサルノミナラズ　兩國ノ交隣ヲ以テ邊防ノ
一小吏ノ手ニ委シテ顧ミルコトナキ朝鮮ノ態度
ハ甚ダ無禮ナリ傲慢ナリト斷案シタ　コノ兩國政
府ハ實情ト態度トハ對州ニ於テハ十分熟知シテ居
ッタ　明治二年ヨリ三年初マデ佐田白茅森山
茂ガ外務省ヨリ派遣サレテ朝鮮ノ答書ヲ
得ベク草梁舘ニ滯留中對州藩ヨリハ二三ノ
藩士ヲ送クリ又大嶋友之允ノ如キハ自ラ進ムデ

佐田ノ一行ト共ニシタ是ノ時ニ當ッテ對州ハ佐田等
ノ來駐ヲ喜バナカッタサレバトテ宗氏ハ　朝鮮側ニ
諒解ヲ求ムルコトニモ力メナカッタ東萊府ト草梁舘
ハ無言ノママ無答ノママ　玆ニ數年ヲ經過シタ日
本ニ於テ征韓論ガ發唱サレルニ至ッタコトハ盖シ
已ムヲ得ナカッタ

元來對州ニ於ケル大嶋樋口ノ對韓方策ハ對州
ノ國防上カラ生レタモノデ决シテ朝鮮ニ武ヲ用ユルト
謂フノテナカツコノ二人以外對州ニ於テハ朝鮮ニ兵ヲ
用イテ國威ヲ宣揚スルナドノ國策ヲ主張シタモノナク
終始朝鮮トノ國交ハ對州人ヲ專有ニ歸シ朝鮮
トノ通商貿易ハ對州人ノミノ獨占ニ供シタカッタ故
ニ明治政府トナリ對韓外交モ對州人ノミデ獨斷
專行シタイ考ヘデアッタ故ニ明治初年ニ於テ日
韓ノ國交ガ急ニ政府ニ移サレ朝鮮ガ對州ヲ相
手トセズシテ東京政府ト直接應接スルコトハ喜
バナカッタ　ソレハ第一對州宗氏ノ威勢ガ傾クカラデアル
第二對州人以外ノ人達ガ朝鮮ニ來テ對州人專
有ノ朝鮮貿易ヲ侵カサレルカラデアル　明治四年外務省
ヨリ花房外務大丞カ渡韓ノ際嚴原ニ於テ暴行
ヲ加ヘラレントシタコトハソノ感情カラ出テタノデアッタ

明治初年ニ於テ佐田等ハ歸朝シテ朝鮮ノ無禮
ヲ應懲スベシトテ盛ンニ强化ヲカメツッアルニ當ッテ
對州藩ハ傍觀拱手遂ニ宗氏ハ嚴原ニ蟄居シ
殆ンド兩國ノ交涉ニハ關心ナキ有樣デアッタカラ明
治四年副嶋種臣外務卿トナルヤ斷然　對州

ノ介在ヲ以テ兩國國交ノ阻害トナルモノトナシ宗
氏ヲシテ朝鮮關係ヨリ手ヲ引カシメタ

對州宗氏ニ代フルニ外務省直轄ノ花房大丞ヲ以テ
ソノ交涉ニ當ラシメタ特ニ軍艦二隻ヲ釜山ニ碇
泊セシメ日本ノ態度ヲ强示シテ朝鮮ノ回答ヲ
求メタガ大院君政府ハアメリカ艦隊ノ退去ヲ見テ
益鎖國ヲ嚴ニシ日本ニ對シテハ隣好修信ヲ中
絶スルノ方針ヲ嚴守シ東萊府ヲシテ益强固ニ
日本ニ對スルコトトナッタコノ機會ニ於テ朝鮮側則チ
釜山僉使ガ日本ニ向ッテ朝鮮トノ交修ハ對州ヲ經
由スルナラ朝鮮モ何トカ速カニ答フルカモ知レヌトノ私書
ヲ送ッテ來タコノ文書ハ恐ラク草梁舘守側ノ細策
デ對州人ノ陰謀デハナイカト思ハレル

明治五年ヨリ七年マデ對州宗氏ハ重ネテ兩國
ノ交際ニ關與スルコトトナッタガ日本ニ於ケル征韓
論派ノ昂奮モ次第甚シクナッタ

而モ征韓論ノ由來系統ヲ考フルニ

對州藩中ニ於テ朝鮮對策ノ强化ヲ提唱シタ
ルモノハ文久三年對州藩ノ名ヲ以テ幕府ニ上
申シタル七策意見デアルコノ意見ニヨレバ朝鮮ニ
於テ國交ノ形式作法ヲ改メ彼我ノ物産ヲ開キ
淸國トノ通商ヲ開キ勉テ朝鮮ノ民心ヲ服シ
大ニ海軍ヲ興シテ海防ヲ嚴ニスルト云フニアリテ直チ
ニ朝鮮ニ武ヲ用ヒテ日本ノ要求ヲ貫徹シ或ハ朝
鮮ノ領土ヲ占有スルト云フニ非ズ謂ハバ儀禮外
交ヲ改メテ對等ナル國交ヲ結ビ日韓ノ國防

ヲ同盟トスルニアリ征韓論ト認ムベキモノハナイ盖シ
對州ト朝鮮ハ前陳ノ如ク▣前二百年後三百年
間親善デアッタ足利氏中期頃ニハ對州ノ立場
ハ頗ル有力デアッテ德川氏ニ至ッテ對州ハ朝鮮
ヨリ年年多大ノ米帛ヲ給與セラレ特ニ對州ト
朝鮮トノ公貿易ニヨリ受ケツツアッタ對州ノ利
益ハ隨分巨額ニ上ッテ居ル故ニ　德川氏末期ニ
及ムデ對州藩ハ朝鮮ニ對シテハ利益ノタメニ
屈服シ朝鮮カラ臣下ノ如キ態度ヲ以テ對州藩
ニ臨ムデ居ッタ故ニ幕末頃對州藩內ニテハ朝
鮮ノ國情ヲ見テ種種劃策ハアッタガ朝鮮ニ武
力ヲ以テ加ヘ以テ日本ノ勢力ヲ扶植シヨウト云フ考
ヲ持ッテハ居ナカッタ朝鮮ニ對シテハ其恩惠コソ
受ケテ居ッタカ自ラ進ムテ征韓スベキ理由モナク又
朝鮮ニ　兵力ヲ以テ要望スルナドトハ全ク考ヘテ居
ナカッタ更ニ明言スレバ　對州藩トシテハ朝鮮ニ
武ヲ用ユベキ名分ハ何モ無カッタ

元治元年高宗卽位ノ年ニハ對州藩ハ宗氏ノ
名ヲ以テ朝鮮ニ鄭重恭順ナル賀書ヲ送ッテ
居ル　明治二年六月　大政官ヨリ王政復古ヲ朝
鮮ニ通知スルニ　當ッテ對州藩ハ草梁和舘ノ
代官ニ　大政官ヨリノ國書ヲ持タセテ東萊府使
ニ送致シタノミデ何等朝鮮對策ノ發揚ニ力
メル風モ無カッタ

明治二年佐田白茅ガ朝鮮ノ態度ヲ看取シ全
ク無禮千万ノ仕儀ナリトシテ歸朝直ニ征韓論

ヲ論唱シタ所以ハ朝鮮ノ態度ガ餘リニ橫
着デ堂堂タル明治日本ヲ一對州藩同樣ニ遇
シ劃サヘ年餘ニ亘リ微微タル　一地方官ノ下
僚ニスラ冷遇セラレタルヲ憤リシアルニアッタハ言フマデモナ
イガ又他ニ征韓論ヲ唱フベキ國內的事情ガ
存在シタカラデアッタ

佐田ノ征韓論ハ急激ナ遣方デ何等國交上
ノ事件ナク只ダ無答傲慢不禮ダト云フ理由
ノ下ニ多數ノ兵力ヲ動カシ不意ニ朝鮮ヲ攻
畧スベシト云フ論旨デアッタ若シ世界ノ强國
ガ又淸國ガ傍觀拱手デコノ朝鮮征服ヲ見
テ吳レタナラ佐田ノ征韓論ハ　明治日本創建
ノ元氣ヲ以テ一氣呵成ニ成功シタデアロウ然レ
ドモ恐ラク當時ノ國際關係ハ日本ノ單獨行動
ヲ許サナカット思ハル

佐田白茅ト同ジ方策ヲ以テ朝鮮征服ヲ企テタ
ル丸山作樂ノ一味ハ遂ニ謀半途テ暴露サレテ
擧事出來ナカッタ丸山ノ征韓論ハソノ目的ハ明
治創業ノ元氣ヲ海外ニ發揮スルタメ朝鮮ニ
武力ヲ加フルニアツテ丸山自ラ直接朝鮮ト交涉
ノ地ニ立ッノデモナク又直接日韓國交絶斷ノ局
ニ關與シタルニ非ズ全ク國內政策ノタメニ征韓
論ヲ唱ヘ又ソノ實行ヲ企圖シタモノデソノ危險千
万ナル寧ロ無法ノ計劃ト評スルノ外ナシ佐田丸
山ノ急進的征韓論ガ日本ニ於テ高調サレタ
折柄朝鮮ニ於テハ大院君ノ如キ肓盲目的鎖國

ヲ實行シ偶然ナルフランス艦隊ノ退去ヲ目シテフ
ランス怖ルルニ足ラズトナシ上國淸國スラフランスノ
攻擊ニ避易シタルニ孤弱朝鮮ガ傲然フランス
退治ヲ誇リトシ日本ノ王政維新ノ成業モソノ
眼中ニナク蕞薾倭夷何スルモノゾト輕侮シ東萊
ノ狀啓ニ接シテ風馬牛視シテ居ッタ時デアッタ今
ソノ兩國ノ對立狀態ヲ觀レハソノ反目對抗ノ
結果戰火ヲ見ズシテ明治九年ノ江華條約
マデ和局ヲ支ヘタコトハ殆ンド意外ト謂フテ可ナリ
デアッタル

當時佐田ノ征韓論提唱ニ際シテ森山茂ノ征韓
論ハ頗ル穩健デアッタ森山ハ征韓ニ先ッテ一應
ハ朝鮮ノ態度ヲ見詰メテ置カネバナラヌ對州
藩ハ何ヲ謂フテモ三百年間朝鮮トノ交際ヲ主
宰シテ居ッタ關係ガアルカラ對州宗氏ヲ以テ
明治日本ニ對スル朝鮮ノ態度ヲ見極メタ上デ
朝鮮ニ向ッテ武力ヲ用ヒルモ遅シトセヌ兎ニモ角
ニモ朝鮮ノ態度ハ腑ニ落チヌ重ネテ折衝シテ
遂ニ我ヲ侮蔑スルナラ已ムヲ得ヌカラ兵力ヲ以テ
朝鮮ニ臨ムモ可ナリト云フニアッタ政府ハ森山ノ
意見ヲ妥當トシテ明治三年ヨリ五年マデ特ニ
明治四年ニハ　アメリカト朝鮮トノ葛藤ヲ利用
シテマデ兩國ノ修交ヲ計ッタ當時日本ノ政府
ガ國內▼(貢/虫)▼(貢/虫)トシテ征韓論ヲ唱フルニ當ッテ忍耐克
ク和局ヲ持久シタリシハ非常ノ苦境デアッタコト
ガ察シ得ラルル

明治五年花房大丞朝鮮派遣ニヨッテ朝鮮ノ
態度モ判明シテ來タ尋常ナ交涉デハ國交回復
不可能ト見タ日本ハ明治六年六月大政官會
議ヲ開催シテ對韓方策ヲ如何ニスベキカヲ評
議シタ

外務卿副嶋種臣ハ不在デ大亟少輔上野景範ガ
代理ヲ勤メ上野ヨリ征韓ノ議ヲ提出シタ議長
ハ大政大臣三條實美デ右大臣岩倉具視
參議木戶公允大久保利通ハ歐米旅行中デ
アッタ西鄕隆盛ハ病ヲ押シテ參會シ閣議ノ
多數ハ朝鮮ニ兵力ヲ以テ臨ミ强硬手段ヲ以テ
日本ノ要求ヲナスコトニ决シタ會議中直チニ
一ケ大隊ヲ釜山ニ送クリ駐屯セシムベシト謂フ說
モアッタカ西鄕隆盛ハ兵力ヲ使用スルニ先ッテ何
人カ直接朝鮮國王ニ面謁シ政府ト談判シ
若シ日本ノ使節ヲ拒ミ我提議ヲ譯ナク排
斥スルナラソノ上デ兵力ヲ以テ征討スベシデアル何
等ノ理由ナク名分ナク突如トシテ兵力ヲ朝鮮ニ
加フルコトハ理由ナイ仕儀デアル希クハソノ使節ニ
ハ拙者ニ大命下ランコトヲ切願スト逑ブルトコロガ
アッタソシテ政府モ征韓論ニ决シ愈實行
ニ際シテ岩倉一行歐米ヨリ歸朝シ征韓論
ノ再吟味トナリ遂ニ內政充實ガ先行サレ外
邦出兵ハ　時機ニ非ズトシテ征韓中止ノ勅命
下ッタ

柳モ西鄕隆盛ノ征韓論ハ規模廣大デ只

ダ兵ヲ朝鮮ニ用ヒテ獨力朝鮮ヲ日本ノ統治
下ニ置クノミナラズ進ムデ滿蒙ノ大陸ニ進展ス
ベシトノ雄大範圖ノ擴張ニアッタ　ソノ企業ガ果シテ
成功シ得シヤ否ヤ甚ダ疑問デアッタガ彼ノ佐
田丸山ノ征韓論トハ異ナリ朝鮮ヲノミ侵畧
奪取スルト云フヤウナ意見テハナカッタ江藤新平ヤ
前原一誠ノ如ク朝鮮一國ヲ攻畧スル侵畧主
義ニモ非ズ兵力ヲ以テ朝鮮ヲ帝國ノ保護下
ニ置キ　大陸ニ於テ大亞細亞主義ヲ實行シテ列
强ニ當ル雄大ナル經綸抱負デアッタ

日本ニ於テ西鄕隆盛ヲ始メトシテ有力ナル政治家
大半征韓論ニ左袒シテ居ッタ時朝鮮ニ於テハ
世界ノ形勢特ニ隣邦日本ノ國情スラ全ク肓盲
目デ朝鮮獨リ世界列邦ノ線外ニアッテ孤立シ
特ニ偶然ナル艦隊ノ退▣去ヲ目シテフランスノ
敗亡ト見僦シ更ラニ　アメリカ艦隊ノ退去ヲ見テ
自國ノ强大ト忘想シ列强怖ルルニ足ラズトシテ無
法ノ鎖國ヲ　實行シ眼中日本ナシノ有樣デア
ッタ　日本ニシテ昔日ノ如ク對州ノ島主ヲ以テ隣交
ノ禮ヲ交換ストセバ之ヲ許容スベキモ　上國大邦
ノ宗主國家ノ如クソノ勅命ト謂ヒ皇上ト唱ヘ朕ト
稱スルガ如キハ　生意氣ナリトシテ排斥シタノデアッタ
謂ハバ明治創建ノ英雄西鄕隆盛ハ雄大ナル帝
國主義ヲ實現セントテ征韓論ヲ唱ヘルニ當
ツテ半嶋ノ英雄大院君ハ前後二回ノ外敵ヲ擊
破シテ金城鐵壁ノ鎖國攘夷ヲ實行シソノ

意氣冲天ノ勢互ニ存在シタ若シ西鄕隆盛ニシテ
當初ノ如ク自ラ使節トナッテ朝鮮ニ赴カシメタ
ナラコノ兩雄ハ直チニ干弋ノ間ニ　相見エタニ相違
ナカッタデアラウ

西鄕隆盛ハ　征韓論中止ニ付キ官ヲ辭シテ故鄕
ニ歸ヘリ　大院君ハ　殆ンド西鄕辭去ノ頃王宮ヲ
出テテ閑居シ東西ノ兩雄期セズシテ退隱シタコ
トハ偶然トハ云ヒ乍ラ奇ト謂フベシコノ兩雄ノ退去
デ日韓ノ國交ハ頗ル密接トナッタ

一明治五年五月二十五日安訓導倭舘ヲ訪問シテ宗
重正ヨリノ書函並ニ吉岡森山等ノ來議ニ答
ヘテ曰ク

　　書契ノ回答ハ衆議ニ諮ッテ决定セラルル
　　ガ故ニ早速ニ之ヲ决定セラルルニ至ラサルベク從ッ
　　テソノ期ヲ豫告スルヲ得ズ　ト

對州大參事相良ハ森山ト協議シテ親シク東
萊府使ニ面會シテソノ要領ヲ知ルベク舘司深見
六郞ト同道シ强イテ關門ヲ開キ東萊城內ニ入リ書
面ヲ提出シテ府使ノ面談ヲ要求シタリ

　　　同治十一年六月二日日付東萊府使ヨリノ狀啓
　　　ニ「舘倭五十六名攔出則臣府姑爲拘置
　　　於公廨深僻處」ト又設有面達之事宴

　　　饗相接之外不得私覿」トアルコノ時ノ事
　　　件ニ該當ス

府使面談ノ要求ニ對シテハ差備官韓敬汝ヲ以テ面答
セシメテ曰ク

　　修交ノ决答ハ議ヲ國中ニ收メ遠カラズシテ其處分
　　ヲ答フルニ至ルベシ云云

　　嚮奉朝命差使价者以報知本邦政權
　　復古顚末也彼徒持區區言說不敢捧
　　出書契萊府遂書不諾之書意以故
　　右件情實仔細朝廷仰决官裁者蓋
　　職事當然也然而廷議謂事實未貫
　　徹因差官員吉岡弘毅森山茂廣津
　　弘信會面萊府親告本邦鄭重之誠意
　　以尋舊盟要隣誼愈篤而永遠不渝也諭
　　到之日須將此由懇告訓別兩國交際使歸
　　于敦原之望爲宜庚午十月政所右諭舘司

一宗重正ノ渡韓　右大臣岩倉具視　澤宣嘉ニ
代リ外務卿トナリ明治四年七月二十九日宗重正
ヲ外務大亟丞ニ任シ韓國ニ派遣シ日韓修交ノ
交涉ニ當ラシメタリ

一明治四年七月二十八日安訓導草梁舘ニ來リ宗重正
ヨリノ書翰ヲ領受シ去ル

一明治四年八月五日外務大丞宗重正渡韓ノ命
ヲ拜シ大嶋正朝(友之允)外務省出仕ニ補セラ
レ重正ト同道渡韓スベキ命アリタリ

一明治四年四月二十五日外務卿澤宣嘉ヨリ嚴原
藩知事宗重正ヲ以テ渡韓セシメ　米韓戰時ヲ
利用シテ日韓修交復活ヲ策スルノ議ヲ　禀啓ス

一明治四年五月澤外務卿ハ再ヒ宗氏ヲ以テ日韓
修交ノ交涉ニ當ラシムルヲ策スルヤ對州藩ニ付シタル
朝鮮ヨリトノ給米貿易則歲遣船ノ廢止ヲ斷行シ幷セテ宗
氏ニハ別ニ手當ヲ給與スベク宗氏ニ對スル歲遣船廢
止方ノ命令書如左

　　舊藩ノ儀ハ歲遣船公私貿易ノ利潤ヲ以テ
　　國計ト致居侯得共右樣ノ儀ハ第一名實
　　不都合ノ上其弊害モ不少候ニ付斷然御改
　　正相成度乍然同藩ニ於テ右利潤ヲ以テ舊
　　來國計ニ取結ヒ來候事故一旦御廢止ニ相成
　　候テハ　忽チ人民飢餓ニモ及ヒ可申儀ト存候間
　　對州ヘハ相當ノ御手當被下候樣仕度存候

　　　　　　　　(辛未五月二十五日澤外務卿)

一二月八日兩全權ハ本艦ヲ發シ鎭海門前ニ
上陸、江華副帥營(中軍ノコトナラン)ノ旅舘ニ入
ル、直ニ尹滋承申櫶ヲ往訪ス尹申モ亦タ日本
全權ヲ訪答ス

一二月七日外務權大丞野村靖東京ヨリ來ル盖
　シ政府ノ訓令ヲ傳フルタメナリ

　　其消息中ニ陸軍卿山縣有朋ハ野村ト同
　　行シ馬關ニ來駐ス但シ朝鮮政府ノ態度
　　如何ニヨリ別ニ指揮スベキ重大命令ヲ帶ヒ居
　　レルコト判明ス

　　　　　　　　外務卿　　　　副島種臣

　　　　正院　　御中

　　　勅書　　　外務卿正四位　副島種臣

一　草梁館司並代官所ハ從前之通相立置可申事

一　無用ノ士官雜人等ハ悉ク引纏メ歸國可爲致事

一　商人ノ去留勝手タルヘキ事

一　勘合印ハ舊章通リノ事

一　歲遣船ハ不差渡事

一　歲遣滯品宗氏負債ト相成候分ハ勘定可拂渡事

一　對州ニ滯居ノ漂民共ハ盡ク返スヘキ事

一　右之通朝鮮國出張外務大丞花房義質ヘ可相達
　　事

　　　明治五年壬申八月十八日

　　　奉勅　　太政大臣從一位　三條實美　花押

　　因云義質委任狀、條目不外于此、故略之、