起案者

舊韓國時代ニ於テハ國王薨去スしバ嗣王ハ其先代ノ事蹟ヲ
記錄シ之ヲ實錄トシテ書庫ニ尙藏シ來リシ慣例アリシニ
ヨリ目下李王職ニテ其ノ例ニ依リ委員ヲ設ケテ故李太王、故李
王兩代ノ實錄ヲ編纂中ナルガ該記錄ノ標題ニ關シ王家ノ
御親戚及ヒ舊臣竝ニ委員中朝鮮人ノ多數ハ故李太王ノ實
錄ヲ「高宗太皇帝實錄」故李王ノ實錄ヲ「純宗皇帝實錄」
ト表示シ度希望ヲ有ス

案スルニ嘗テ韓國ガ淸國ノ覊絆ヲ脫シテ完全ナル獨立
國トナリシ時ヨリ日韓倂合ニ至ルマテノ間ハ韓國主權者ガ皇
帝ノ尊稱ヲ用イタルハ明カニシテ又故李太王(當時ノ皇帝)退
位後新皇帝ハ光武十一年七月二十一日ノ詔勅ニヨリ太皇帝
ノ尊號ヲ奉リシコトモ歷史上明白ナル事實ナリトス而シテ「高
宗」及「純宗」ハ其神靈ヲ奉祀スル廟號ニシテ尊號ト何等ノ關
係ナシ故ニ各其一代ノ事蹟ノ記錄ニ「高宗太皇帝實錄」及ヒ
「純宗皇帝實錄」ノ標題ヲ附スルハ事實ニ符合シ敢テ不可
ナカラント思料セラル但日韓倂合後ハ明治四十三年八月二十
九日ノ詔勅ニヨリ太皇帝、皇帝ノ尊號ヲ德壽宮李太王及ヒ
昌德宮李王ト改メタルニヨリ其以後ニ於ケル事績ヲ右ノ實錄
中ニ收ムルノ可否ハ疑問ノ存スルトコロナルモ其後ニ於ケル皇室ノ御
優遇其他薨去ニ關スル事實等ノ如キ一代ノ履歷ヲ敍スルニ於
テ必要缺ク可カラサル事項ハ倂テ之ヲ記錄シ置クヲ適當ナリト
信ス

前記廟號及尊號ノ外ニ諡號アリ諡號ハ記錄ノ標題ニ附セス
ト雖モ斯ル諡號アリシコトヲ記錄中ニ記載スルノ要アリ卽チ故
李太王ノ諡號ハ「文憲武章仁翼貞孝」故李王ノ諡號ハ「文溫武
寧敦仁誠敬」等ノ文字ナルガ元來朝鮮ニ於ケル諡號ノ制ハ支
那古代ヨリノ制ヲ用ヒタルモノニシテ禮記ニ所謂「天子崩スしバ則
臣下諡ヲ南郊ニ制シ明ニ之ヲ天ニ受ク諸侯薨スしバ則チ太子天
子ニ赴告シ明ニ之ヲ君ニ告ク蓋シ子ハ父ヲ議スルコトヲ得ズ臣ハ君
ヲ議スルコトヲ得ズ故ニ之ヲ天ニ受ク君ニ受ク卿大夫ノ如キハ則チ
有司議シテ之ヲ諡ス」云云ヨリ出テタルモノナリト謂ノ故ニ此制度
ニ從ヘハ日韓倂合後ノ諡號ハ之ヲ天子ニ受ケザしバ不可ナルガ如
キモ從來內地ニテハ斯ル制度無キヲ以テ右ノ諡號ノ如キハ現ニ
內地人ノ家庭ニテ死者ニ附スル院號等ト同意義ノモノト解スル
ヲ適當ナリト思料ス

要スルニ實錄編纂ハ

　　一、固ヨリ李王家ノ內事タルコト
　　二、完了ノ上ハ李王家ノ書庫ニ藏シ置クモノニシテ公刊スル
　　　　モノニ非サルコト
　　三、日韓倂合ノ詔書及倂合條約ハ明確ニ之ヲ記入シテ時世
　　　　ノ推移ヲ明カニスルコト
　　四、日韓倂合後ハ李王家トノ關係ニ於テ君臣等ノ文字ヲ
　　　　用ヒサルコト
ノ方針ナしバ其ノ標題ハ朝鮮側ノ希望ヲモ斟酌シ
　　　　　高宗太皇帝　實錄
　　　　　純宗　皇帝　實錄
トシ又其ノ內容ニ前記諡ノ文字ヲモ記載スル筈ニ付キ豫メ御諒
解ラ得置度此段及內申候也

　　昭和七年十一月　日

　　　　　　　李王職長官　篠田治策

宮內大臣一木喜德郞　殿

　　　　　　　　　起案者

舊韓國時代ニ於テハ國王薨去スしバ嗣王ハ其先代ノ
事蹟ヲ記錄シ之ヲ實錄トシテ書庫ニ尙藏シ來リ
シ慣例アリシニヨリ目下李王職ニテ其例ニ依リ委員ヲ
設ケテ故李太王、故李王兩代ノ實錄ヲ編纂中ナルガ該記
錄ノ標題ニ關シ王家ノ御親戚及ヒ舊臣竝ニ委員中朝
鮮人ノ多數ハ故李太王ノ實錄ヲ「高宗太皇帝實錄」故
李王ノ實錄ヲ「純宗皇帝實錄」ト表示シ度希望ヲ
有ス

案スルニ嘗テ韓國ガ淸國ノ覊絆ヲ脫シテ完全ナル獨
立國トナリシ時ヨリ日韓倂合ニ至ルマテノ間ハ韓國主權
者ガ皇帝ノ尊稱ヲ用イタルハ明カニシテ又故李太王(當
時ノ皇帝)退位後新皇帝ハ光武十一年七月二十一
日ノ詔勅ニヨリ太皇帝ノ尊號ヲ奉リシコトモ歷史
上明白ナル事實ナリトス而シテ「高宗」及「純宗」ハ其神
靈ヲ奉祀スル廟號ニシテ尊號ト何等ノ關係ナシ
故ニ各其一代ノ事蹟ノ記錄ニ「高宗太皇帝實
錄」及ヒ「純宗皇帝實錄」ノ標題ヲ附スルハ事
實ニ符合シ敢テ不可ナカラント思料セラル但日韓倂
合後ハ明治四十三年八月二十九日ノ詔勅ニヨリ太皇帝、
皇帝ノ尊號ヲ德壽宮李太王及ヒ昌德宮李王ト改
メタルニヨリ其以後ニ於ケル事績ヲ右ノ實錄中ニ收ム
ルノ可否ハ疑問ノ存スルトコロナルモ其後ニ於ケル皇
室ノ御優遇其他薨去ニ關スル事實等ノ如キ一代ノ
履歷ヲ叙スルニ於テ必要缺ク可カラサル事項ハ倂テ之ヲ
記錄シ置クヲ適當ナリト信ス

前記廟號及尊號ノ外ニ諡號アリ諡號ハ記
錄ノ標題ニ附セスト雖モ斯ル諡號アリシコトヲ記錄中
ニ記載スルノ要アリ卽チ故李太王ノ諡號ハ「文憲武章
仁翼貞孝」故李王ノ諡號ハ「文溫武寧敦仁誠
敬」等ノ文字ナルガ元來朝鮮ニ於ケル諡號ノ制ハ支
那古代ヨリノ制ヲ用ヒタルモノニシテ禮記ニ所謂「天
子崩スしバ則臣下諡ヲ南郊ニ制シ明ニ之ヲ天ニ受ク
諸侯薨スしバ則チ太子天子ニ赴告シ明ニ之ヲ君ニ告ク
蓋シ子ハ父ヲ議スルコトヲ得ズ臣ハ君ヲ議スルコトヲ
得ズ故ニ之ヲ天ニ受ク君ニ受ク卿大夫ノ如キハ則チ
有司議シテ之ヲ諡ス」云云ヨリ出テタルモノナリト
謂ノ故ニ此制度ニ從ヘハ日韓倂合後ノ諡號ハ之
ヲ天子ニ受ケザしバ不可ナルガ如キモ從來內地ニテハ
斯ル制度無キヲ以テ右ノ諡號ノ如キハ現ニ內地人ノ家
庭ニテ死者ニ附スル院號等ト同意義ノモノト解スルヲ
適當ナリト思料ス

要スルニ實錄編纂ハ

　　一、固ヨリ李王家ノ內事タルコト
　　二、完了ノ上ハ李王家ノ書庫ニ藏シ置クモノニシテ
　　　　公刊スルモノニ非サルコト
　　三、日韓倂合ノ詔書及倂合條約ハ明確ニ之ヲ記入
　　　　シテ時世ノ推移ヲ明カニスルコト
　　四、日韓倂合後ハ李王家トノ關係ニ於テ君臣等
　　　　ノ文字ヲ用ヒサルコト
ノ方針ナしバ其ノ標題ハ朝鮮側ノ希望ヲモ斟酌シ
　　　　　高宗太皇帝　實錄
　　　　　純宗　皇帝　實錄
トシ又其ノ內容ニ前記諡ノ文字ヲモ記載スル筈ニ付
キ豫メ御諒解ヲ得置度此段及內申候也

　　昭和七年十一月　日

　　　　　　　李王職長官　篠田治策

宮內大臣一木喜德郞　殿